放熱材の塗布はなぜ難しいのか
車載電子部品の工場で、生産技術を18年やってきた北村です。
接着や封止の工程をいくつも立ち上げてきましたが、なかでも手こずったのが放熱材の塗布でした。
見た目はただの白いグリースです。
それでも量産に乗せようとすると、思うように塗れません。
この記事では、放熱材の塗布がなぜ難しいのかを、材料の性質から整理します。
目次
放熱材は「すき間の空気」を追い出すために塗る
部品とヒートシンクを重ねても、表面の細かな凹凸のせいで、すき間に空気が残ります。
日立製作所の研究者による日本機械学会論文集の論文(2017年)によれば、空気の熱伝導率はアルミの約1万分の1です。
放熱材は、このすき間を埋めるために塗ります。
裏を返すと、塗った中に気泡や塗り残しがあれば、そこは熱の通り道になりません。
塗った後に空気が入ることもあります。
三菱電機技報(2013年)では、温度変化をくり返すうちにグリースが外気を吸い込み、ボイド(空洞)が増えていく「ポンプアウト」という現象を説明しています。
だからこそ、決まった量を決まった場所へ出す仕組みが要ります。
その役目を担うのがディスペンサーという装置です。
ディスペンサーとはどんな装置かを解説したナカリキッドコントロールのページでは、エアで押し出す方式や、ピストンで体積を量る方式などの違いが整理されています。
塗布を難しくしている3つの性質
粘度が高く、出る量が安定しない
放熱材の多くは、熱を通す粉(フィラー)を樹脂やオイルに混ぜた材料です。
そのぶん粘度が高くなります。
信越化学工業の放熱用シリコーンのページを見ると、放熱用グリースG-775の粘度は500Pa·sです。
これだけ重いと、押す力やスピードのわずかな差で出る量が変わります。
冷えると固まる材料では、タンクやホースを温めながら吐出する必要もあると、ディスペンサーメーカーのナカリキッドコントロールは解説しています。
中の粉が装置を削る
フィラーには金属粉や無機粉が使われることがあります。
材料によっては、これがポンプやバルブの内側をこすって部品をすり減らします。
ナカリキッドコントロールも、摩耗が起きる材料には耐摩耗性に優れた定量塗布の仕組みが必要だとしています。
多くても少なくても困る
塗布量が少なければ放熱が足りません。
多すぎれば、はみ出して周りの部品に付きます。
厚みも効いてきます。
先ほどの信越化学工業の特性表では、熱伝導率3.6W/m·KのG-775の熱抵抗は75µmの厚みで25mm²·K/Wです。
一方、熱伝導率1.3W/m·KのG-776は、7.8µmの厚みで7.4mm²·K/Wでした。
測定条件が同じではないので単純には比べられませんが、熱を通しやすい材料でも厚く塗れば熱抵抗が大きくなることがわかります。
装置に任せるときの見方
ここまでの話を表にまとめます。
| 性質 | 現場で起きること | 装置側の対応 |
|---|---|---|
| 粘度が高い | 押す力や温度で量がぶれる | 体積で量る方式を選ぶ、材料を温める |
| フィラーを含む | ポンプやバルブが摩耗する | 耐摩耗性の部品を使う |
| 量と厚みがシビア | 人や日によって厚みが変わる | 毎回同じ量を同じ位置に出す |
私が装置を選ぶときに気にするのは、次の3点です。
- 粘度が変わっても吐出量がぶれにくい方式か(ピストンで体積を量る容積計量方式など)
- フィラー入りの材料に対応した部品が用意されているか
- 自社の材料で試し吐出ができるか
3点目は見落とされがちです。
粘度やフィラーの量は材料ごとに違うので、カタログの数字だけでは判断しきれません。
まとめ
放熱材の塗布が難しいのは、粘度が高く、装置を削る粉を含み、量と厚みにシビアな材料だからです。
手作業でカバーできるのは試作までだと私は考えています。
量産を考えているなら、まず自社の放熱材の粘度とフィラーの有無を調べてみてください。
そのうえで装置メーカーに試し吐出を相談すると、話が早く進みます。
最終更新日 2026年10月12日 by modemee